ナチュラル・ウォッシュド・ハニー・スマトラ式――精製方法でコーヒーの味はどう変わる?
コーヒー豆を買うとき、
「Natural」
「Washed」
「Honey」
という言葉を見たことはありませんか?
インドネシアのコーヒーなら、
「Giling Basah(ギリン・バサ)」
と書かれていることもあります。
これらはすべて、収穫したコーヒーチェリーから生豆を作るための**精製方法(Processing Method)**を表しています。
実はコーヒーの味を決めるのは、産地や品種、焙煎だけではありません。
収穫後にどうやって果肉を取り除き、発酵させ、乾燥させるのか。
この違いによって、同じ地域・同じ品種のコーヒーでも味わいは大きく変化します。
今回は代表的な4つの精製方法を紹介します。
① ウォッシュド(Washed)
ウォッシュドは、収穫したコーヒーチェリーから果皮・果肉を取り除き、発酵などを利用して種子の周囲に残ったミューシレージを除去してから乾燥させる方法です。
最大の特徴は、
クリーンさと味の輪郭。
果実を付けたまま長期間乾燥させるナチュラルに比べて、発酵や果肉由来の風味が強く出にくいため、その土地や品種が持つ特徴を比較的感じ取りやすい精製方法です。
一般的には、
・クリーン
・明るい酸
・透明感
・すっきりした後味
といった方向になりやすい傾向があります。
柑橘系の酸やフローラルな香りを持つ豆では、その特徴がきれいに現れることがあります。
「そのコーヒーが本来持っている個性を見てみたい」
そんなとき、0566ではウォッシュドをひとつの基準として考えることがあります。
② ナチュラル(Natural)
ナチュラルは非常に古くから行われている精製方法です。
収穫したコーヒーチェリーを、果実が付いた状態のまま乾燥させます。
十分に乾燥した後、乾燥した果皮や果肉を取り除き、中から生豆を取り出します。
果実と種子が長期間接触した状態で乾燥・発酵が進むため、ウォッシュドとはかなり違った味になりやすいのが特徴です。
一般的には、
・強い甘さ
・ベリー系
・熟した果実
・トロピカルフルーツ
・ワインのような香り
・厚みのある口当たり
などが現れやすくなります。
一方、ナチュラルは乾燥管理が難しい精製方法でもあります。
乾燥が不均一だったり、発酵が過度に進んだりすると、好ましくない発酵臭や品質のばらつきにつながる可能性があります。
だからこそ、きれいに作られたナチュラルには独特の魅力があります。
③ ハニー(Honey)
名前から「ハチミツを使っているの?」と思われることがありますが、ハチミツは使用しません。
コーヒーチェリーの果皮を取り除いたあと、種子の周囲にある粘液質(ミューシレージ)をある程度残したまま乾燥させる方法です。
この粘液質がベタベタしており、見た目がハチミツのように見えることなどから「Honey Process」と呼ばれています。
味の方向性としては、
ウォッシュドのクリーンさと、ナチュラルの甘さの中間
と表現すると分かりやすいかもしれません。
一般的には、
・甘さ
・丸み
・果実感
・キャラメルやブラウンシュガーのようなニュアンス
・適度な酸
などを感じやすくなります。
もちろん、残すミューシレージの量や乾燥方法によって味は変化します。
生産者の技術が味に表れやすい精製方法のひとつです。
④ スマトラ式(Giling Basah)
そしてインドネシア、特にスマトラ島のコーヒーを語るうえで欠かせないのが、
Giling Basah(ギリン・バサ)
です。
日本では「スマトラ式」「ウェットハル」などと呼ばれています。
通常のウォッシュドでは、パーチメントと呼ばれる殻が付いた状態で十分に乾燥させ、その後パーチメントを取り除きます。
ところがスマトラ式では、まだ水分を多く含んだ段階でパーチメントを取り除きます。
その後、生豆の状態でさらに乾燥させます。
なぜこんな特殊な方法が生まれたのでしょうか。
大きな理由のひとつが、スマトラの高温多湿な気候です。
雨や湿度が多い環境では、コーヒーを完全に乾燥させるまで長い時間が必要になります。
そこで、乾燥途中でパーチメントを取り除き、乾燥を進める独自の方法が発達しました。
このスマトラ式によって、
・重厚なボディ
・比較的穏やかな酸
・アーシー
・ハーブ
・スパイス
・ウッディ
・ダークチョコレート
など、私たちが「マンデリンらしい」と感じる味わいにつながることがあります。
同じコーヒーを4種類に精製したら?
ここがおもしろいところです。
同じ農園で収穫された同じ品種のコーヒーでも、
ウォッシュド
ナチュラル
ハニー
スマトラ式
に分ければ、それぞれ違った表情を見せます。
実際、北スマトラのSigarar Utangを異なる方法で精製した研究でも、Full Wash、Semi Wash、Honey、Naturalなどで官能評価が行われ、複数の精製方法でスペシャルティ水準の評価が得られています。
つまり、
「どこで作ったか」だけではコーヒーの味は決まらない。
品種、標高、気候、収穫、精製、乾燥、保管、そして最後に焙煎。
そのすべてが一杯のコーヒーにつながっています。
0566がサモシール島で4種類を持ち帰った理由
2026年8月、0566珈琲製作所はインドネシア・スマトラ島北部のサモシール島を訪れました。
現地の精製所を回る中で、伝統的なスマトラ式だけではなく、フルウォッシュド、ナチュラル、ハニーといった精製も行われていることを確認しました。
そこで私たちは、異なる精製方法の生豆を日本へ持ち帰りました。
目的は単純です。
実際に同じ地域のコーヒーを焙煎して、飲み比べてみたい。
産地の個性なのか。
品種の個性なのか。
精製によって生まれた個性なのか。
それを自分たちで確かめたいからです。
どの精製方法が一番おいしい?
答えは、
「どれが一番というものではない」
だと思います。
透明感やきれいな酸が好きならウォッシュド。
果実感や華やかな香りが好きならナチュラル。
甘さとバランスを求めるならハニー。
重厚なボディやスマトラらしい複雑さを楽しみたいならスマトラ式。
好みによって選ぶ楽しさがあります。
コーヒー豆を選ぶときは、産地だけではなく、ぜひ袋に書かれている「PROCESS(精製方法)」にも注目してみてください。
今まで何気なく飲んでいたコーヒーの味が、少し違って見えてくるかもしれません。
4つの精製方法を簡単に比較
ウォッシュド
特徴:果肉を除去してから乾燥
味の傾向:クリーン、明るい酸、透明感
ナチュラル
特徴:チェリーのまま乾燥
味の傾向:果実感、甘さ、ワインのような香り
ハニー
特徴:ミューシレージを残して乾燥
味の傾向:甘さ、丸み、果実感
スマトラ式(Giling Basah)
特徴:高い水分を残した段階で脱殻し、その後さらに乾燥
味の傾向:厚いボディ、穏やかな酸、ハーブ、スパイス、アーシーなニュアンス
参考資料・情報源
・Specialty Coffee Association「The Fermentation Effect」
https://sca.coffee/sca-news/25-magazine/issue-10/english/the-fermentation-effect-25-magazine-issue-10-bw558
・FAO「Coffee Processing/Techniques in Tapanuli Utara, Humbang Hasundutan, and Toba Samosir District」
https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/agns/pdf/coffee/Annex-E.5.pdf
・Purba et al.「Sensory Quality and Hedonic Level of Sigararutang Arabica Coffee Brew on Varied Processing Treatment」
https://conference.lppm.unila.ac.id/index.php/icsiger/article/view/58
※サモシール島における精製状況についての記述は、0566珈琲製作所が2026年8月に現地の農園・精製所を訪問して行った聞き取りと調査に基づいています。